Home 研究の現場 #台湾 神戸の台湾人:コミュニティに生き、歴史を記録する(2)

神戸の台湾人:コミュニティに生き、歴史を記録する(2)

岡野翔太(葉翔太)

 神戸にはチャイナタウンや中華学校があることから、「華僑」が暮らす街としても知られている。私は神戸中華同文学校を卒業し、そんな私が華僑研究をしていることから、よく周囲より「華僑が華僑の研究をしている」と言われることがある。しかし、意外にも神戸の台南真珠商人のことや、父のように1970-80年代に留学生として来日した台湾人ニューカマーのことは研究してこなかった。あまりにも日常すぎたのかもしれない。最近は意識的に神戸の台湾人の話を聞き、記録するように心がけている。

 また現在の台湾では、台湾アイデンティティの強まりとともに、台湾の外で暮らす人々を「台僑」と呼ぶようになった。しかし日本に長く暮らす台湾人のなかには、自らを「華僑」と位置づけ、華僑総会の活動にも関わってきた人びとがいる。「なぜ台湾人なのに“華僑”なのか」。今の台湾社会を基準に考える若い台湾人や、現代の中台関係を前提に台湾を理解する日本人に説明するのはなかなか骨が折れる。

 2025年10月、私は『中華民国留日神戸華僑総会80年史』【写真3】を編集した。

【写真3 『中華民国留日神戸華僑総会80年史』(筆者撮影)】

この作業を通じて、神戸の台湾人に関連する多くの資料が新たに見つかり、刊行前後には写真も続々と集まった。並行して聞き取り調査を進めるなかで、親・祖父母の来日経緯から、日常の与太話、さらには遺産相続の複雑な手続きに至るまで、思いもよらぬ話題に及ぶこともある。「なぜ自分がこうなのか分からない」。そう語る当事者にしばしば出会う。なぜ自分は日本に生まれたのか。なぜ家族は神戸に来たのか。その答えを手探りしながら生きている神戸の台湾人は少なくない。

 だからこそ、私はこの街に根を下ろしてきた台湾人たちの人生を、丁寧に記録していきたい。かれらの子世代が抱える疑問や思索の時間に寄り添い、「自分の来歴を理解するための手がかり」となるような研究を今後も続けていきたいと考えている。